半沢直樹よろしく「銀行は人事が全て」ではないが、僕が勤務している重厚長大な会社も似たようなものである。この時期になると、およそ関係のない人までがそわそわとして、予想屋のように人事で盛り上がっている。
一方の僕はどうかと言えば、がんの再発のことは上層部に伝えてあったため、降格までは既定路線であった。中途採用してもらって再発なんか洒落にもならんよなぁ、と思いながら仕事をしていたところ、突如の上司からの呼び出し。やはり来たか。
「クビにならんかったら御の字やな…」と会議室に向かい、内示を受けたところ…なんと昇進を言い渡されたのである。
内示を受けた瞬間、思わず「正気ですか?」と言ってしまった。
失礼極まりないが、偽らざる本音だ。
がんのような病気で恐ろしいのは、金銭面のやりくりと、長期に渡る闘病での世間との断絶である。僕は幸いにして保険などで金銭的に苦しむことはない環境を構築できているため、世間との断絶で社会的に死ぬのが最も恐ろしい。この度、僕は引き続きどちらも享受できる「幸運」に恵まれたのだ。
不思議なもので、病気になると、全ての当たり前の出来事を健常者の数倍の感度で味わうことができる。病気になった数少ない利点であろうか。